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Secret space
第5章 5
 そうしてまた、紗織は無気力に一日を過ぎるのを待った。
それでも昨日よりはいくらか冷静だった。

この屋敷に居るということは、あの男と、その行為とも、受け入れるということ。
そのぐらい紗織はきちんと理解できていた。
それを思うと、紗織はこのまま素足でも、屋敷から飛び出て逃げ出したかった。

けれど、実和の和む笑顔と、そうされて当然のような持て成しを受けると、
反発の言葉も、喉の奥にひっこんでしまう。


(この人は、 私が出て行くと言ったら、何て答えるんだろう。
 やはり、この笑顔のまま、送り出すのだろうか・・・)


 食卓に立派に並んだ料理に、少しずつ箸を付ける自分を
静かに見守る美しい女性を見て、紗織は思った。


 しかし現実問題として、この屋敷を出たところで、行くあてが無い。
家に帰っても、この屋敷に留まるのも、結果は同じである事を紗織は知っていた。
友達の家に泊まるという手も考えたが、そう長く続けられるものでは無いし、
その程度ではすぐに、連れ戻されてしまうだろう。
親戚の家も、あまりそれと変わりがあるようには思えなかった。

 とにかくここを出て、どうにか家へ帰って、自分の財布と貯金通帳を持ち出せれば、
それでしばらくの間やっていけるだろう。
だが、手持ちのお金が無くなれば、それで終わりだ。
16の年齢では、まっとうにお金を稼ぐ方法も、雇ってもらえるようなところも、
紗織には思いつかない。
援交紛いのことでもすれば稼げるのだろうが、そんなの今と変わらないではないか。

 それでも、二日前のあの夜なら。
この屋敷に連れてこられ、寝具の用意された部屋を見て、
初めて自分の置かれた立場を理解したあの時なら、
あてもないその道を選ぶことに躊躇さえしなかっただろう。

 でも今の紗織には
あの時感じた燃え上がるような怒りも、気力さえも、残ってはいなかった。
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