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Secret space
第5章 5
「箸が、お進みになってはいませんね。
お口に合わなかったでしょうか?」
実和の優しい声で、思考が引き戻される。
「いえ・・、 その、あまり、食欲がわかなくて」
「それはいけませんね。昨晩もあまりお召し上がりにならなかったでしょう。
どうぞ、もっとお食べになってくださいまし」
そう言って微笑む実和に、紗織も小さく微笑み返した。
___________________
食事の後、通された部屋は昨日と同じ、板張りの間だった。
どっしりとしたローテーブルに向かい合って置かれた木製の大きな回転椅子の一つに
紗織は腰掛けた。レンガ色のクッションが腰の下で沈むのを感じた。
部屋に通されてすぐに、実和が紗織を気遣ってか、
キャスター付の液晶テレビをカラカラと持ってきた。
テレビを付けると、
ワイドショーはいつもの口調で、犯罪者がどうのとか、
あの芸能人に離婚の危機だとかをさも重大事件のように騒いでいる。
学校で過ごすべき時間を、こうやって過ごしていると、
時間の流れるのがとてもゆっくりに思える。
「学校に・・・行きたいな・・」
紗織は思わず呟いていた。
学校がたいして好きというわけではないし、
休みがもっと一杯あればいいと思っているタイプだった紗織には
そんなことは思いもしなかったことだが、今ははっきりそう言えた。
教室に、授業に、先生に、友達。
紗織さえ口を噤めば、紗織の今の状況を知るものは誰もいない。
そこには紗織の日常があった。
残された、最後の日常。
こんな屋敷に、ずっと閉じ込められて暮らすのは嫌だ。
思い出される学校での日々は、どれも楽しく素敵なものに思えた。
しかもそれは、今だって、そこに行きさえすれば、続行が可能だった。
(行きたい、 行きたい、 どうしても。
そしてあの生活を取り戻したい)
一度そう願いだすと、永遠に、頭の中でその思考が繰り返されるのだった。
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お口に合わなかったでしょうか?」
実和の優しい声で、思考が引き戻される。
「いえ・・、 その、あまり、食欲がわかなくて」
「それはいけませんね。昨晩もあまりお召し上がりにならなかったでしょう。
どうぞ、もっとお食べになってくださいまし」
そう言って微笑む実和に、紗織も小さく微笑み返した。
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食事の後、通された部屋は昨日と同じ、板張りの間だった。
どっしりとしたローテーブルに向かい合って置かれた木製の大きな回転椅子の一つに
紗織は腰掛けた。レンガ色のクッションが腰の下で沈むのを感じた。
部屋に通されてすぐに、実和が紗織を気遣ってか、
キャスター付の液晶テレビをカラカラと持ってきた。
テレビを付けると、
ワイドショーはいつもの口調で、犯罪者がどうのとか、
あの芸能人に離婚の危機だとかをさも重大事件のように騒いでいる。
学校で過ごすべき時間を、こうやって過ごしていると、
時間の流れるのがとてもゆっくりに思える。
「学校に・・・行きたいな・・」
紗織は思わず呟いていた。
学校がたいして好きというわけではないし、
休みがもっと一杯あればいいと思っているタイプだった紗織には
そんなことは思いもしなかったことだが、今ははっきりそう言えた。
教室に、授業に、先生に、友達。
紗織さえ口を噤めば、紗織の今の状況を知るものは誰もいない。
そこには紗織の日常があった。
残された、最後の日常。
こんな屋敷に、ずっと閉じ込められて暮らすのは嫌だ。
思い出される学校での日々は、どれも楽しく素敵なものに思えた。
しかもそれは、今だって、そこに行きさえすれば、続行が可能だった。
(行きたい、 行きたい、 どうしても。
そしてあの生活を取り戻したい)
一度そう願いだすと、永遠に、頭の中でその思考が繰り返されるのだった。
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