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Secret space
第5章 5
 その日は、陽がすっかり暮れてしまった後も、男は帰ってこなかった。
紗織は食事と風呂を済まし、することもなくテレビを見ていた。
 自分の食器ぐらい片付けますと実和に提案したが、
とんでもないと言って、とてもさせてくれそうになかった。

急に玄関のほうから、慌しい人の動きがする。
紗織はそれに気がつくと、びくりとして身を竦ませた。


(あいつ・・・帰ってきたんだ)


 心臓が、激しく波打つ。
紗織は、昨日もそうであったように、どこかに隠れたい、逃げ出したい衝動が
湧き上がってくるのを、心の中で抑え込んだ。
そんな場所はどこにもないのだから。

 紗織は立ち上がり、手元のリモコンで、無意味に音が流れ出るテレビの電源を切ると、
下半分はガラスの入った格子の戸を開けて、
廊下から近付いて来る足音の前に立ちはだかった。


「まさか、お前のほうから出迎えるとはな」


男が、廊下に立ちふさがる紗織を見て眼を細めた。
紗織は無言で、男を射貫くように見つめた。


「どういう 風の吹き回しだ?」


男は、顎に指を滑らせて紗織を上を向かせ、
親指で、そこにあるのを確かめるように下唇を触れた。

そしてゆっくりと、男の顔が紗織の顔に近づく。
紗織は僅かに口を開いて男の舌を受け入れた。
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