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Secret space
第6章 6
 畳に敷かれた寝具を見ると、
初めての夜の出来事が強制的に思い出された。

性については疎かった紗織も、
誰かとそういう関係を持つことを、全く想像してこなかった訳ではない。
でもそれは絶対、こんなふうに起こるはずではなかったし、
あの男との行為は、紗織のどんな知識も想像も 遥かに陵駕していた。


「今日はもう、あれで 許してくれる・・・ってことは
 ないだろうな・・・」


男はあの後、部屋を出て行ったきりだった。
おそらく風呂にでも行っているのだろう。
紗織は勧められるまま、用意された寝巻きの浴衣に着替え、部屋を移動した。

白い寝具。二組の枕。細い木の枠が交差する和紙造りの照明が、ぼんやりとした光を放っている。

畳の部屋は初めて見た時と、全く同じ状態でそこにあった。
強いて違うと言えば、紗織の服装と そして気持ち だろうか。
紗織は昨日の夜のことを思い出しかけて、すぐにやめた。


(こんな部屋に居ると、
 何か期待して待っているみたいじゃない)


紗織は見つめていた白いシーツから目を背け、入ってきた襖を開けると、
もう一つ、部屋を介して廊下に出た。

戸を開け放って、日本庭園に臨む縁側に腰掛けると空を見上げた。
僅かに上部が欠けた月が、空に浮かんで紗織を照らしている。
夜風は秋の気配を含んで涼しく、浴衣の隙間から入り込んでは紗織の素肌を撫でた。

紗織は庭に出たくなって、素足のまま石畳の上に降りた。
ひんやりとした石の冷気が足から伝わる。
夜の空気を胸一杯に吸い込むと、少しは気持ちが晴れる気がした。
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