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Secret space
第2章 2
「普通、そういうことを最初に聞くか?
 なんでこんなことになってるのか、聞かないのか?」


低い声のその持ち主は意外と若かった。

暗闇に慣れた目が、
薄明かりの照明に照らし出された男の顔を、視界に捕える。

男は唇に柔らかなカーブを描かせ、整った顔に柔和な表情を浮かべている。
ただ目だけが面白がるような冷たい輝きを持って、紗織を見つめていた。


「別に。聞かなくても想像つくもの」


その視線を跳ね返すようにそっけなく言った。

 改めて見た男の容姿はちょっと意外だった。
借金のかたに娘を犯そうなんて考えを起こす根性の悪い金持ちは、
絶対中年で太って、気持ちの悪いオヤジに違いないと思っていたからだ。

でも容姿がどうであれ、やっていることに変わりはない。


「多額の借金抱えて首が回らないうちの親と、
 いかにも裕福そうな屋敷をもった貴方との間に、
 どんな取引があったかなんて、聞きたくもないわ。
 むしろどうしてもっと早く気づかなかったのかって、
 私の馬鹿さに呆れてるぐらい。

 それよりも貴方は誰?
 まだ十六の子供をこうやって犯そうとするんだから、
 どうせろくでも無い卑劣なやつに決まっているけど」


一拍の間があって、また男の笑い声が聞こえた。


「面白いなお前。
 ひょっとしてそれ、俺にその気をなくさせようとする作戦か?」


紗織は無言で男を睨みつける。


「だとしたら、失敗だ。
 俺はけなされたら余計、その女を服従させたくなる。
 それに、いくら気丈に振舞っても、足が震えてしまっているよ。
 お嬢さん」


(この人、見破ってる・・・。しかも馬鹿にしてる!!)


例えそうでなくても、紗織にそう思わせるには十分だった。

頭に血が上って、顔が熱く、赤く火照るのがわかった。
精一杯の憎しみを込めて、より一層、男を睨んだ。

引っぱたいてやろうと力のこもった腕は、
やはり男に封じられたままだった。
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