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Secret space
第7章 7
 本当に、ここに来るつもりではなかった。

今朝、実和から言われた通りに、手渡された携帯電話で、
下校時刻に連絡を入れて、朝乗ってきたその車の運転手に、
適当なところで拾って貰う手筈だった。
無論、屋敷に戻りたくはなかったから、他に行く当てを探すと
足が向かうところと言えば、ひとつしかない。

 生まれた時からこの土地で、慣れ親しんだ町並みを
紗織は複雑な気持ちで踏みしめた。

もう、紗織の家の町工場は、五十メートル先に見えている。
自然と歩幅が狭く、ゆっくりとなる。
もう、数メートル先。


ゴウンゴウンゴウン―――

機械が動く音がする。それも何重にも重なって。
それを聞いて紗織は、ほっと安堵の溜息をついた。


(よかった。すごく 繁盛してるみたい)


所々黒く汚れた作業着を身に付けて、忙しそうに働く父の後ろ姿を、
紗織は物陰から恐る恐る確認した。

 その父が、突然、紗織の居る方向に振り向いた。
ばちりと目が合う音がする。

紗織は何も言葉が見つからず、ただ立ち尽くしていた。
一瞬、父の顔の下で感情が、複雑に交差するのが見えた気がした。


視線が 使い古された糸のようにぷつりと切れる。
絶望が 月よりも遠い距離を紗織の前に運んで来る。

足が急激に機能を回復して、脱兎のようにそこから逃げる。

 少しでも遠く 一秒でも速く 

 私をここから 消さなくては


 逃げ込んだ公園の、もう人気のないブランコに腰掛けて、
紗織は呆然と、自分の足元の地面を見詰めた。


(やだなぁ・・・父さんったら・・・
 何も そんな 目を逸らすこと無いじゃない。
 あんな、何か いけないものでも見たように さ・・・・)


父の見せた背中を思い出して、小さく笑う。


(本当に やめたんだね。
 私の親であるっていうこと、もうやめちゃったんだね)


十分理解していたはずのことも、もう一度目の当たりにすると、
胸の中に膨らんでいた期待の風船は、瞬時に音もなく弾け、跡形も残らない。
紗織は頬を流れ出す涙を、止めようとは思わなかった。


(ごめんね・・・。そこには、もう 行かないね。
 私、もう、絶対に 行かないから。安心して・・・)
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