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女喰い
第6章 弥八郎
男は肩から胸を斜めにバッサリとやられ、叫び声をあげてよろつきながら後ろへ下がった。

「あっ……、兄貴ぃー! 大変だ、斬られちまった」

傍にいた男の仲間が顔をひきつらせて騒いだ。

「ば、馬鹿野郎……、峰打ちだ、いってぇー」

打たれた男は肩を押さえてうずくまっている。
峰打ちとは言っても、刀で思い切り打たれれば結構な痛手になる。

「お前ら、ボサっとするな、娘を奪え! 」

男は残る2人に向かって怒鳴った。

「え、いや、でも兄貴……、あ、寛太、お前行け」

2人は狼狽えたが、片方がもう一人に命じた。

「ええ、俺っすか? しかし……相手は侍っすよ」

だが、言われた男は及び腰になっている。

「馬鹿、旗本奴は皆侍じゃねぇか、お前も匕首持ってるだろ」

「あ……、へい、確かに持ってます……」

「じゃ、行け、娘っこを奪え、そしたら礼金がたんまり手に入るぜ」

命令した男は、自分は行こうとはせずにけしかける。

「金か……、くう~、こうなりゃ一か八かだ、とりゃ~っ! 」

けしかけられた男はやけになったように言うと、抜いた匕首を振り上げて走りだし、江衛門に斬りかかった。
お美代はヒヤッとしたが、バシッと鈍い音がして男が地面に倒れ込んだ。

「う"う"~、やっぱり無理だった、いてぇよ~」

男は片手に匕首を握ったまま、泣きそうな面で肩を押さえている。

「お主ら、この娘は渡さぬ、諦めて立ち去れ、さもなくば……もっと痛い目にあうぞ」

江衛門は脅すように言った。

「ち、ちくしょー、覚えてやがれ! 」

最初に峰打ちを受けた男が捨て台詞を吐き、倒れた奴がよろつきながら立ち上がり、3人は連れ立ってどこかへ向かって歩いて行く。

「あの……、ありがとうございます、助かりました」

お美代は江衛門に向かって頭を下げた。

「その為に拙者がいるのだ、礼には及ばん、さ、ゆこう」

江衛門は刀を鞘におさめて言うと、お美代を促して歩き出した。

「はい……」

お美代は頷いて後に続いたが、江衛門は意外な程優しく、克己的で頼りがいがある。
長屋に向かってしずしずと歩きながら、江衛門の事を粋でいなせな格好良いお侍さんだと思っていた。



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