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理想というまやかし
第1章 孤独の女神
十五歳に達する頃、一日も早く家を出たいという願望は、真麻(まあさ)の中で既に膨れ上がっていた。
当時、ただでさえ三十四という若さだった母親は、中学校の参観日などは保護者の列に混じっているだけで、羨望や嫉妬の眼差しを集めていた。それは娘の真麻から見ても瞭然だったし、加えて皮膚の真下に月光を仕込んでいるのではないかと思うほどの白肌は、実際、指の腹に吸いつくようにしっとりとしたもち肌だった。
肌や髪が艶やかなら、その美貌はより際立つ。
美しさの自覚も人並みを凌駕していた母親は、部屋と部屋とを隔てる扉があってないのも同然のマンションに、しょっちゅう男を招いていた。
男達の顔は日ごとに変わる。
美しい母親には寄り集まる友人も多いのだと、真麻が純粋な子供心で解釈していたのはこの世に生を受けてからほんの数年で、小学校での保健の授業が具体的になる頃には、イヤでもその異常性を理解する羽目になった。
真麻の父親は、離縁も他界もしていない。
真麻が二十二歳になった今も、某有名企業の海外支店で、申し分ないキャリアを積んでいる。
父親の赴任先が海外なのが、問題だ。
帰国は年に数回、その間、近隣住民の顔見知り達でさえ母娘の部屋は二人だけが暮らしているのだと誤解するほど、お人好しの世帯主の影がほとんどないのだ。家庭内における事実上の実権を握っていた母親は、いわゆる浮気をするにしても、こそこそ隠れる必要もなかった。