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理想というまやかし
第4章 哀傷の姫


 俯いて声を荒げる未沙は、娘の立場からすれば認めるべきではないにしても、本当に可愛い。そして呆れるほど正直なりとの口振りは、やはり真麻を騙っていたとは思えない。


「それで、どうする?真麻。今日からどこで暮らす?」


 もちろんこのあと愛乃に会う。

 どうしようもなく彼女を愛している。愛乃は真麻にとって女神で、彼女の歌を、きっとこの先も慕い続ける。
 ただ、それは客席からにとどめる。愛乃が真麻の未来を繋いだように、今度は真麻が、彼女を未来へ送り出す。
 真麻が側にいては、愛乃は立ち上がれない。たくさん頑張って傷ついてきた彼女は、もう休ませるべきところだが、真麻は初めて彼女の歌を聴いた時の、あの強さを信じたい。愛乃に、別れを告げる。


「あーあ、愛乃さん、泣くよ」

「りとのせいでしょ」

「おっ、真麻、私と暮らしてくれるの?」

「まさか」


 真麻は未沙に向き直る。

 りとのことは諦めて、私のために。

 娘から母親に対する要求としてはあまりにも特異な台詞のあと、未沙の了承を確かめると、やはり目を合わせるだけで不真面目に身体の奥が熱くなる友人の方に視線を戻した。


「りとの部屋、安眠出来ないって聞いたもん。お母さんのところに戻って、今夜から五月蝿くしないように監視するの」


 これが正しいのか間違いかは、分からない。真麻は重大な過ちに身を投じているかも知れない。

 それでも、未沙が好きでりとが好きだ。愛おしいものを愛おしいと気づかない内にこぼれ落ちてしまわないよう、今はしっかり掴んでおきたい。







理想というまやかし ──完──
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