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理想というまやかし
第4章 哀傷の姫
「もう良いよ、お母さん。りと」
「真麻」
「本当に良いんだ。もう、本当に……」
いつでも、真麻から誰かに歩み寄ったことがなかった。
話しもしないで未沙の愛情を疑って、りとには耳も貸さなかった。狭くちっぽけな世界にこもって、与えられるものを待つだけの雛のように、愛乃の目隠しに他の全てを遮断して、架空の安寧に浸っていた。
それでは何も得られない。何も失わないかも知れなくても、いつまで経っても、暗い奈落からは這い出せない。
考え方を変えれば、ものを見る角度を変えれば、真麻の周りは見違えるほど変わるかも知れない。昨日、りとと過ごして見えなかったものが見えた気がした。ここで彼女達を頭ごなしに否定すれば、真麻はまた、怯えるだけの日々に戻る。
「お母さんが、私のこと、恋人を取った穢い子だって言わないでいてくれた。ごめん、って、言ってくれた。一緒に悲しんで欲しかったんだ」
「真麻……」
「怖くて痛くて悔しかった。昔の私には戻れない。こんな私でも、好き?」
「好きだって、言ってるでしょ。年甲斐もなく、あんな馬鹿なことしたから私……」
「歳は、言っちゃダメだよ」
「りと?」
「未沙さんが人妻だろうとお母さんだろうと、その前に女性だ。人間だ。立場や歳を、何かを諦めるための理由にしちゃいけない。未沙さんは可愛いし……、ごめん、あの頃は、真麻が全然つれなくて、未沙さんに逃げたことは謝る」
「…………」
「でも、未沙さんには、真麻を思い出すところがあったんだろうな。少なくとも私は、未沙さんの身体を本当に愛してた。自信持つべきだ」
「っ、……りと、真麻の前で……っ」