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勇者の献上品である聖女は、魔王に奪われその身に愛をそそがれる
第34章 女神と魔王③
「……そう……だな。突然現れ、お前を奪った私に言われても、受け入れるなど出来ないか」

 返事がないのを別の意味にとった魔王は、少し寂し気に笑った。
 勘違いだと、フィーネは慌てて否定する。

「ち、違うのです! 突然のことで、頭が真っ白になって……あれ?」

 突然、目の前がぼやけた。
 瞬きすると瞳から零れた大きな雫が、火照った彼女の頬を伝って流れていく。

 魔王の境遇を知り、苦しくて涙した時とは全く違う感情を含んで。

「あ……あぁ……私……」

 手の甲で涙を拭きながら、フィーネは戸惑った。

 何故だか分からないのに、涙が溢れて止まらない。
 決して悲しい訳じゃないのに、涙が零れて止まらない。

 その感情は、フィーネにとって今まで感じたことのない縁遠いもの。道具として生きる自分には、抱いてはいけないものだと思っていた。

 しかし彼が抱く想いを聞き、気づいてしまったのだ。
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