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勇者の献上品である聖女は、魔王に奪われその身に愛をそそがれる
第35章 名前①
 次の瞬間、目の前が銀色で一杯になった。

 再び唇が塞がれると、フィーネは咄嗟に瞳を閉じた。
 魔王に強く、強く抱きしめられるのを感じながら。

 フィーネも彼の想いに答えるように、両手を厚い身体に回し、抱きしめ返す。
 ぎゅっと、彼の服を握って。

 互いの感触を確かめるように唇を食み合いながら、二人は繋がり続けた。

 きっと時間としては、ひと時だったに違いない。
 しかし、長い時を思わせるには十分すぎるほどの繋がりだった。

 二人の唇が離れ、フィーネはゆっくりと瞳を開いた。そしてこちらに注がれる視線を感じながら、少し俯き加減になって照れ笑いを浮かべる。

 今さらになって、自分の口から想いを伝えたことに、恥ずかしさを覚えたからだ。

 しかし彼女の頬を魔王の手が捕えると、視線が合うように顔を向けさせられてしまう。
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