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勇者の献上品である聖女は、魔王に奪われその身に愛をそそがれる
第35章 名前①
 それが、不安だった。

 しかし魔王は一瞬だけ寂しそうに瞳を細めると、再びフィーネの身体を抱きしめた。

 さわさわと耳元に掛かる銀色の髪の毛を感じながら、低くも何かにすがるような必死な声が鼓膜を震わせる。

「私が見ているのは、肉体の向こうにある魂の姿だ。肉体など、魂を着飾っている化粧にすぎない。肉体がどのような変化を見せようとも、お前への気持ちは決して変わらない。たとえお前が死んでも……生まれ変わったお前をまた見つけ出す。だから……ずっと私の傍にいろ。勇者などではなく、私の傍に……」

「魔王……様……」

 変わらない愛を告げられ、フィーネの心が嬉しさで一杯になった。
 先ほどまで抱いていた不安が、雪が解けるように消えていくのが分かる。

 その時、魔王はフィーネから少し身体を離すと、どことなく言いにくそうに口を開いた。
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