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BeLoved. 【懐旧談】
第3章 代償
「また来るから」
沢山愛しあった後の、心地の良いまどろみの中。
浴びせられたその声で、頭と心は一瞬で冷めた。
…いつものことだけど。
眠りに落ちかけた瞼をこじ開け、視線を向けた先には。
行為直後とは思えない素早さで、身支度を整えた『彼氏』の背中。…ああ、早く帰りたいのね。
「…さみしいな、ねぇ、もう少し…」
「あー、無理。明日保育園の発表会なんだよ」
「…そ、か。ごめんね」
わざと、甘えるように。ねだるように言ってみても。
彼はあっさりと突っぱねてくれる。
そして私もあっさりと引く。…これも、いつものこと。
愛されてないわけじゃない。
『仕方ない』だけ。だって
「嫁にも、日付変わるまでには帰れ って言われたし」
私たちは俗に言う『不倫』関係だから。
「──で、うちの子、未満児なのに堂々としたもんでさ」
「あはっ、そうなんだぁ。すごいね」
彼の話を楽しむフリして、笑顔で相槌。
これだっていつものこと。
ホントはこれっぽっちも聞きたくない。
『家族の話』をする時の彼は、本当に幸せそうだから。
胸が黒いものでいっぱいになって、たまらなくなるよ。
──いつからこうなったんだろう?
確か私たち、ちゃんと付き合っていたはずなのに。
浮気は何度かされたけど、いつだって仲直りして。
最後にはいつも、私のところに戻ってきてくれて。
このままずっと一緒にいられるって信じてたのに。
『俺、結婚するから』
あの日あの時の、あの宣告から、かなぁ。
貴方が私の知らない女と結婚した後も、その女との間にできた子供が生まれた後も、こうして関係は続いてる。
…むしろ以前より、会う回数は増えてる。
理由なんてわかってるよ?
会いたい時だけ会える。趣味嗜好を知り尽くしてる。
従順で、くだらない嫉妬も束縛もしない『いい女』。
私が貴方にとって、より『都合のいい』女になったからだってこと。
そして──もうひとつ。
「はは。こいつ、口と目が半開きだ。お前と一緒じゃん」
帰り際。彼が微笑みながら髪をそっと撫でた、女の子。
傍に敷かれた布団で、すやすやと眠っている、私の娘。
私と──彼の、娘。この子がいるからだ。