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BeLoved. 【懐旧談】
第3章 代償
彼の隣は、私のもの。私だけのもの。
誰にもあげない。
それは、彼が『ひとのもの』になっても変わらない。
でも。私はそれをけっして表には出さない。
出した瞬間に、彼との細く脆い糸は切れる。
だいすき。愛してる。それは叶わない想い。
だって貴方はもう『ひとのもの』だから。
酷い男だってわかってる。奥さんも子供もいる癖に
平気で私との関係を続けたあげくに、娘まで作って。
女手一つで育ててくれた母には縁を切られた。
職場も追われた。友達はみんないなくなった。
そして
他でもない、彼には誰より傷付けられてきた。
『俺、結婚するから』心に最初のヒビが入った。
『嫁が妊娠したんだ』そのヒビが亀裂になった。
『子供の名前は──』心が壊れた音を聞いた。
それでも、離れない。大好きなの。愛してるの。
こんなに愛しても、未だに結ばれないけれどね。
叶わない想い。純愛?悲恋?…どうなんだろう。
どんなに都合の『いい女』を演じていても
虚しさや苛立ちが、全く無いわけじゃない。
だけどそんなもの、彼に会うと彼方へ飛んでいくの。
彼が私の元に来る度に、溢れてくるのは──
彼の『妻』への、優越感。
ああ、知らしめてやりたい。
ねえ、ほら。嫉妬して?悔しいでしょ?
ねえ、ほら。見て?ねえ、ほら。見て。
あなたよりも愛されてる『わたし』を。
『また来るから。』
その言葉が、何よりの証。
『家族』がいても、あなたがいても
彼は私の元へ来てくれるの。
彼の隣は、私のもの。私だけのもの。
誰にもあげない。
それは、彼が『ひとのもの』になっても変わらない。
───だから、ありえないはずなの。こんなの。
「俺ら、終わりにしよ」
暖かくなってきた頃、突然切り出された別れ。
訳が分からなくて、泣いて喚いて縋り着いた。
「あー、ごめん。無理」
それを彼は、あっさりと突き放す。…いつものように。
私だけじゃなく娘にも視線すら向けやしない。酷い男。
ああ。
大好きでたまらなく愛おしいあなたは、
最後の最後まで、私を傷付けるんだね。
「もう来ないから」