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BeLoved. 【懐旧談】
第3章 代償
それからの私は抜け殻だった。
ぷっつりと切れてしまった、彼との細く脆い糸。
私にとっての彼は、私のすべて。
でも
彼にとって私は所詮、その程度。
妻との天秤に掛けるまでもなく、捨てられる。
その程度。
『都合のいい』女どころか『どうでもいい』女
───かわいそう───
何処にいても何をしていても
あの女の声と視線が離れない
あの女はどこまでも冷静だった。
いっそのこと、罵倒したり軽蔑したり
殴りつけてくれた方が何倍も良かった。
あの女にとっても私は その程度 で──
『かわいそう』ということなのか……
───どうして?なんで私ばっかりが
こんな思いをしなければならないの?
だいすき。愛してる。だから──大嫌い。
神様、どうか時間を戻してよ。
どうか彼と出会う前に戻して。
好きだと言われた時があった。
やさしく抱かれた時があった。
咲き誇る向日葵畑の中、彼と娘と私と手を繋いで
『家族』みたく笑いあった、幸せな時があった。
今はもう、その全てが疎ましい。
「おかぁさん、また、おでかけ…?」
もう、どうでもよかった。
彼も、仕事も、生活も、…娘も。
「どこ、いくの…?おかあさん…」
ああ。私を見上げる娘の目元は貴方にそっくり。
こんな不安そうな色は、見たことないけれどね。
「いい子にしてるのよ」
貴方の全てを捨て去るために、私は。
とてつもなく大きな代償を支払うのだ。
「おかぁさ…!」
閉ざしたこのドアを、私が再び開けることは…ないだろう。
「もう、要らない」
完