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華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~
第26章 26 思い出話
今まで気が付かなかったのか、不思議なほど花が咲き乱れていた。四季の移り変わりにもともと敏感なほうではないが、いつの間に春が訪れていたのだろうかと、明るい庭を隆明は見渡した。
胡晶鈴が去ってから、心の中は鉛色で重く沈み、揺れ動かされることはなかった。王太子といっても、政治は王と大臣たちが行い、彼は政の勉強中という身になるので、参加しているわけではなかった。そして王太子妃も彼に打ち解ける風ではなく、義務的な笑顔を見せるばかりだ。生まれた女児が、彼を父親として慕うにはまだまだ時間がかかる。隆明にとって心から打ち解け、親しんだものは晶鈴しかいなかったのだ。
「そなたも晶鈴と親しかったのか?」
「ええ。お互い見習いでしたし、歳も近かったので」
「そうか」
隆明は、薬師の陸慶明を通して晶鈴を懐かしむ。
「晶鈴からそなたのことを聞いたことはなかったな」
「まあ、彼女は占い師ですので、他言はしないのでしょう。もちろん王太子様のことも、まったく話に聞いていませんでしたし」
隆明も慶明も、晶鈴の守秘義務を守る強固な態度に苦笑せざるを得なかった。
「せめて慶明のことでも知っておれば、このような思いはしなかったかもしれないものを」
苦し気に悲し気にしかし美しく笑む隆明に、晶鈴はまこと罪作りだと、慶明は苦笑した。
「でも晶鈴は誰よりも王太子様をお慕いしてました」
「ふふっ。気を使う必要はない」
「そんなつもりは……」
「よいのだ」
のどまで、あなたの子を孕んでいたと言いかけるがぐっと慶明は飲み込む。王朝に混乱を招く真似を自分がするわけにはいかなかった。
「故郷にいるのだろうか」
「恐らくそうでしょう」
隆明の発言に対し、どんどん嘘をつき続けねばならないのかと慶明は心苦しくなってきた。
「そなたは友人のようだし、もし晶鈴から手紙でも届いたら様子でも教えてほしい」
「あ、ええ。まあ晶鈴のことですから筆不精でしょうね」
「ふふふっ。そうかもなあ。まあ良い。付き合わせて悪かったな」
「とんでもありません」
「またよろしく頼む」
「もちろんです。喜んでお供します」
「私はもう少し外の空気を吸うことにしよう」
「では私はこれで」
胡晶鈴が去ってから、心の中は鉛色で重く沈み、揺れ動かされることはなかった。王太子といっても、政治は王と大臣たちが行い、彼は政の勉強中という身になるので、参加しているわけではなかった。そして王太子妃も彼に打ち解ける風ではなく、義務的な笑顔を見せるばかりだ。生まれた女児が、彼を父親として慕うにはまだまだ時間がかかる。隆明にとって心から打ち解け、親しんだものは晶鈴しかいなかったのだ。
「そなたも晶鈴と親しかったのか?」
「ええ。お互い見習いでしたし、歳も近かったので」
「そうか」
隆明は、薬師の陸慶明を通して晶鈴を懐かしむ。
「晶鈴からそなたのことを聞いたことはなかったな」
「まあ、彼女は占い師ですので、他言はしないのでしょう。もちろん王太子様のことも、まったく話に聞いていませんでしたし」
隆明も慶明も、晶鈴の守秘義務を守る強固な態度に苦笑せざるを得なかった。
「せめて慶明のことでも知っておれば、このような思いはしなかったかもしれないものを」
苦し気に悲し気にしかし美しく笑む隆明に、晶鈴はまこと罪作りだと、慶明は苦笑した。
「でも晶鈴は誰よりも王太子様をお慕いしてました」
「ふふっ。気を使う必要はない」
「そんなつもりは……」
「よいのだ」
のどまで、あなたの子を孕んでいたと言いかけるがぐっと慶明は飲み込む。王朝に混乱を招く真似を自分がするわけにはいかなかった。
「故郷にいるのだろうか」
「恐らくそうでしょう」
隆明の発言に対し、どんどん嘘をつき続けねばならないのかと慶明は心苦しくなってきた。
「そなたは友人のようだし、もし晶鈴から手紙でも届いたら様子でも教えてほしい」
「あ、ええ。まあ晶鈴のことですから筆不精でしょうね」
「ふふふっ。そうかもなあ。まあ良い。付き合わせて悪かったな」
「とんでもありません」
「またよろしく頼む」
「もちろんです。喜んでお供します」
「私はもう少し外の空気を吸うことにしよう」
「では私はこれで」