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華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~
第5章 5 晶鈴の日常
 占い師見習いから占い師助手になっている。もう数年すれば占い師女博となり、後進を育てる立場にもなるだろう。今は見習いの宿舎から小さいながらも一つの小屋を与えられている。そして一人だけ身の回りの世話をする年若い下女がついていた。静かな庵の周囲には、色々な花が植えられているが、香りのするものはない。草原育ちの彼女にとってかぐわしい香りは、占いの邪魔になるのだった。

「そちらへどうぞ。春衣。ちょっと外で邪魔が入らないように見張ってて」
「わかりました。晶鈴さま」

 晶鈴は中に張秘書監を案内し、下女の春衣を外に出す。二人は履物を脱ぎ、低い卓の前に腰掛ける。小さな小屋ではあるが、硬くしなやかな材木のおかげで、きしむ音はしない。防音されているようで全くの無音の部屋になっている。長い袖の中から、濃紺の絹織物の包みをとりだし、丁寧に広げる。広げた布の中にはまた一つ布袋が入っている。手のひらの乗るほどの布袋を膝に置き、晶鈴は婿候補の名前を尋ねる。

「苗字は言わなくていいわ。余計なことは知りたくないから」
「は、はあ。じゃ、じゃあ申し込んできた順に――幸、凱、頼です」

 うんうんと聞きながら、晶鈴は小袋に手を差し込み、一つ、また一つと紫色の小石をとりだす。3列に3段並べ見比べる。

「そうねえ。幸さんはあまり出世はしないけど家を大事にします。凱さんは出世するけど家にあまりいない。頼さんは食うに困らないけど、人任せにするわ」

 晶鈴の言葉を聞きながら、張秘書監はうーんと唸る。

「これは誰を選べばいいんじゃ」
「そうねえ。三者三様ねえ」
「晶鈴殿なら誰にします?」
「えー。私? さあー。聞かれても困るわ。私のことじゃないし。決めるのは当事者でしょ」
「まこと、まこと。おっしゃる通りで」

 ふうっと大きなため息をつき張秘書監は立ち上がる。

「あら、お帰り? お茶は?」

 顔の横で手を振り、張秘書監は「ちょっと夫人と相談します」と難しい顔で頭を下げて出ていった。晶鈴は静かに笑んで恰幅の良い後姿を見送った。
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