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華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~
第60章 60 面影
「ただ話せないのだ。音がわからないのでなあ。だから手間がかかるが筆談になるの」
「いえ、それだけでも十分です。全く伝わらないよりも」
「で、これがわしが作った中浪辞典じゃ。まさか使われる日が来るとおもわなかったが」

 はははっと張秘書監はふっくらした腹をさすって笑った。星羅はそっと中浪辞典に触れる。巻物ではなく蛇腹に紙が交互に折り重ねられていた。

「これは持ちだしても構わん。ただ一冊しかないので丁重に扱ってもらいたい」
「わかりました。書き写したらお返しします」
「それと、これは晶鈴殿にも渡したものだが」

 折りたたまれた紙を広げると華夏国と西国、浪漫国と他の諸国などが描かれていた。

「地図は見たことがあるかね?」
「華夏国と周辺までしかありません」
「ほらご覧。華夏国は大きいが、世界はもっと広いのだ。浪漫国はこの砂漠を越えたここにある」
「こんなところに……」

 改めて地図を見ると、浪漫国はとても遠く過酷な旅になることが分かった。

「晶鈴殿のことじゃ。元気でちゃんとやっておろう」

 慰めのような、それでいてそうだと思わせるような話しぶりを、誰もがする。母の胡晶鈴はきっと誰からも絶望を感じさせることのない人なのだと思う。悲観的にならないようにと、いつもいない母から励まされるような気がした。

 いつでも来て良いと言われ星羅は図書館を後にした。地理と言葉を身に着け、軍師見習いから助手になることが今、星羅の目指すところだった。

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