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華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~
第68章 68 恋心
 風とともに線香の香りが漂ってくる。香りのほうに目をやると、広く開け放たれた部屋の一室に白装束の慶明が座っている。そこは春衣の部屋なのだろう。じっと彼が見つめる先には位牌がある。

「おじさま……」

 静かに声を掛けると、少しやつれた慶明が顔を向け優しく笑んだ。

「よくきたね」
「あの、お線香あげてもいいですか?」
「ああ、ありがとう」

 頭を下げ静かに部屋に入り、位牌を目の前にする。手を合わせ春衣のことを思う。星羅が知っている春衣は、使用人頭で家の中を取り仕切り、明樹に対して世話をよく焼いていた。直接話したこともなく、どんな人物だったかはよく知らない。

「春衣さんは、母に最初仕えていたそうですね」
「ああ、当時からよく気が利いててね。浮世離れしている晶鈴の世話を焼いていたよ」
「不自由なさいますね……」
「まったくだ。春衣ほど有能なものを探すのも難しいだろう」

 春衣は特に学問を修めているわけでもなく、何かに特化した才能があるわけでもない。それでも医局長の陸慶明に有能と言わしめる彼女は実務能力が抜群だったのだろう。

「あまりに采配が上手いので彼女の気持ちに気づいてやれなかった」
「気持ち、ですか?」
「うん。春衣は晶鈴がいたころから私を慕ってくれていたそうだ。もっと早く気づいてやればよかった」
「おじさまを慕って……」
「きっと私のためになると思って屋敷の中のことも頑張ってくれていたのだろうな。間抜けな私は、単純にそれを彼女の能力だと思っていたよ」

 慶明は遠い空に目をやった。
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