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華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~
第106章 106 浪漫国へ
 一年以上かけての旅は過酷で、隊商は最初の3分の2の人数になっている。浪漫国に到着したときに半分以上残っていればいいほうだ。旅慣れた屈強の商人たちはおおよそ残るが、奴隷の半数は病にかかり、水に当たり死んでいく。
この旅は奴隷の自然の選別でもあった。シルクロードを越えることのできる奴隷の価値はとても高い。身体の頑丈さと精神力が並の人間とは違うのだ。半分失っても、隊商の儲けは莫大だ。

 一年も一緒に旅をすると家族のような親密さが生まれる。晶鈴は「もたない」ほうだろうと思われていた。西国人とも土耳其人とも違い、白く華奢で弱々しく見える。さすがに日焼けをして小麦色の肌になっているが、強そうには見えなかった。

「お前は見た目とは違ってなかなか屈強だな」
「私たち華夏国民は肉体だけではない。気が大事なのよ」
「面白いことを言うな」

 いつの間にか言葉も覚え、よく話した。国民性なのか、西国人も土耳古人も陽気で難しく考えることはしない。
 長旅もいよいよ終わりに近付いた。キャラバンの隊長が浪漫国の国境に差し掛かった時大きく息をして肩を上げ下げした。

「やあ、今回も無事についた」

 隊長の言葉に、奴隷たちが騒めく。

「どこに売られるんだろう」「何をさせられるだろうか」「主人は厳しいだろうか」

 真黒な顔をした隊長は「よく頑張ったな」と仲間のように奴隷に声を掛ける。

「お前たちのような奴隷は並の者は買うことが出来ない。富豪や役人であるから給金もいいだろうよ」

 隊長の言葉は偽りがないことを知っているので奴隷たちは希望を持つ。

「明日は早速、奴隷市にいく。今夜は宿に泊まり、身体を洗い身綺麗にしておくのだ。より高く売れるようにな」

 浪漫国に入り、雑多な市を抜け大きな宿屋に隊商は落ち着いた。奴隷たちは隊長からコインを一枚もらう。

「これで風呂に入り何か買って食べると良い」
「言葉がわからないのだけど」

 晶鈴が尋ねると隊長は白い歯を見せる。

「大丈夫だ。新顔のお前たちが明日奴隷として売られることが風呂屋も屋台の者もすぐわかる。金を渡すだけで融通をきかせてくれるだろう」

 そういうものなのかと晶鈴は頷いて宿屋の外に出る。浪漫国も土耳古国も西国も、そして華夏国も国境に近い町は色々な民族が交じり合い、雑多で、喧騒で、色彩の渦だった。
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