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第70章 エピローグ　クランク淫　主艶女優綾子

３２



「現場では台本持たない方が
いいからって。
カオルちゃんも初めての演技だったから、
一生懸命だったの」
「でも、綾子ちゃんまで、、、」


「スタッフでも、覚えたほうが
いいのかなって」
「そんなスタッフ、
今まで一人もいないよ。
でもそしたら、主演女優の台詞も
言えちゃうの？」
「完璧じゃないですけど、
なんか、覚えやすくて。
やっぱり、似てるのかな？
他人に思えなくって」


綾子がそう思うのも
無理はない。
今回のセリフは、
ダミーの表のシナリオのものも、
健一が、綾子が話すことを
思い描いて書いていたからだ。


ケダモノの健一でも
作品を作るにあたっては、
繊細で天才的な能力を
発揮した。


それは、前の彼女、
ミドリの時も同様で、
だからこそ、ミドリは
イキイキとした演技を見せ、
圧倒的な人気を誇ったのだ。


だから、ミドリも
ずっと健一のことを信じていた。
綾子が健一の前に
現れるまでは、
ミドリの存在そのものが
健一にとっても創作の源泉で
あったのは間違いなかった。


そんな健一が全力で
書いたセリフだから、
綾子が、覚えやすいのも
当然のことだった。


「ただ、、、」
「ただ、、、何？」


「遠くにいる恋人と、
初めて出会った男の人の
間で揺れ動く心っていうのが、
今、ひとつ実感がなくて」
「え？じゃあ、
浮気とかしたことないの？」
「そんな、浮気だなんて、、、
え、、、あっ、、、」


その瞬間、
綾子はイケメンくんに
突然、抱きしめられた。


「どう、これなら実感、湧く？」