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真紅の花嫁
第8章 紫苑の教師
真波はショルダーバッグを持つ手に力を込めた。
バッグの中には、買ったばかりのスタンガンが入っていた。
小洒落たマンションの三階。金属製のドアの前で、何度か深呼吸をする。
インターフォンを鳴らそうとしたとたん、ドアが開いた。
開けたのは女性だった。
真波を見て驚いたのか、両眼を大きく見開く。
「どなた?」
不愛想に言われた。
四十歳前後の痩せぎすの女性が、片手に大きな袋を持っていた。
ゴミ出しに行くところだったようだ。
顔立ちは整っていたが、メタルフレームの眼鏡をかけて表情も乏しいため、ひどく冷たい印象を受ける。
「あの……」
何と名乗ればいいのか迷っているうちに、女性の方から声をかけてくれた。
「亮の知り合い?
もしかして、美術館の関係者?」
「あ、そうです。
ええと、朝比奈美術館で学芸員をしている矢崎と申します」
女性は笑顔ひとつ見せずに、真波の上から下までじろじろと観察し、軽く肩をすくめた。
「ま、いいわ。入って」
ゴミ袋を玄関わきに置いて、部屋の奥を示す。