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真紅の花嫁
第8章 紫苑の教師
上り口には、その女性のものらしい、くたびれたベージュのパンプスしかなかった。
少しためらいを覚えたが、真波はシューズを脱いで部屋に上がった。
紺のざっくりしたギャザーブラウスに、ダークイエローのパンツスタイル。
スリッパはなく、ソックスにフローリングの床が不安感を煽る。
十畳ほどあるワンルームの突き当りは、暗色のカーテンがかかった大きなガラス窓。
白い壁際にベッドと机が並び、入口側にはカウンターテーブルとキッチンがあった。
女性はカウンターテーブルの前の椅子をすすめて、
「亮は買い物に行ってる。
すぐ戻ると思うけど。何か飲みます?」
「いえ。あの、おかまいなく」
木製の椅子に浅く腰かけて、真波は部屋を見回した。
作りつけのクローゼットの横に、キャスター付きのスタンドミラー。
ベッドにもなりそうなソファと大型の液晶テレビ。
スチール製の本棚には哲学書と美術書が多い。
玄関の右手にふたつあるドアは、トイレとバスルームだろう。
ベッドはきちんと整えられている。
アンティーク調の鉄製ベッドや壁の映画ポスター、カーテンの色などに見覚えがある。
綾音が縛りつけられていた肘掛椅子もあった。
カメラに映っていた部屋に間違いなかった。