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真紅の花嫁
第8章 紫苑の教師

「復讐って――
   姫川さんがあなたに何をしたというの?」

「綾音本人じゃなくて、姫川家への復讐。
   いや、武藤家かな?」

うーん、と首を傾げて、

「どっちでもいいや。
  だから申し訳ないけど、やめるわけにはいかない」

訳が分からず、真波はどう反応していいかわからない。

「……武藤家か姫川家の人たちに、恨みでもあるの?」

「まったく想像つかない?」

「小さい頃ひどいめにあったとか」

「全然違う」

ふっと疲れたような笑いを浮かべた後、内緒話でもするように、

「ひとつヒントをあげようか。
 朝山紫郎と武藤綾乃の二人は、さて、本当はどんな関係だったのでしょう」

いきなりの人名に、戸惑うしかなかった。

七十年も前の画家と、その支援者。
それがなぜ、姫川綾音への酷すぎる行為と結びつくのか。



「それよりさ。もうすぐ、ここに綾音がくるんだ」

亮はテーブルの上に身を乗り出した。
週末のレクリエーションの話でもするように、声が弾んでいた。

「いいもの、見せてあげようか」

「近寄らないでっ」

身の危険を感じて、バッグの中の護身具に手を伸ばした。

「嫌ならいいよ。
  でも、真波さんなら、きっと見たがると思うな」

見透かしたような笑みは、十七歳のものではなかった。



ぞくり、と背筋に妖しい戦慄が駆け抜けた。




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