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真紅の花嫁
第1章 深緑の美術館
「だけど、そんなお嬢さまが美術館でインターンをするなんて、めずらしいですよね」
亮が不思議そうに言った。
インターンシップは美術館の人材育成事業のひとつ。
実際に美術館のさまざまな業務に参画してもらい、将来、美術教育の仕事に就きたい学生たちに、背景にある考え方や現場の状況を学んでもらおうというものだ。
朝比奈美術館でも毎年、数名のインターンを募集している。
ワークショップ(体験型講座)やシンポジウム等の教育普及分野の準備や補助、美術資料の整理・データベース化などがおもな内容で、週二、三回で半年間の研修となる。
次世代のスタッフを育てるためには重要な制度だが、半面、裏方の地味な仕事でもある。
姫川家の令嬢が応募してきたときは、館長までが色めき立った。
もちろん、特別扱いしないことで合意したが、まじめに取り組んでくれるのかどうか、未知数が多かった。
「いいじゃないの。
美術館の仕事を、市のお偉いさんに認めてもらうチャンスなんだから。
もしかしたら、来年度の予算、少しアップするかもよ。
いや、そんなワケないか」
あはは、と笑った後、
「さあさあ、無駄話はこれでおしまい」
と、市ノ瀬はよいしょと立ち上がった。
(いけない。こっちも早く終わらせなくちゃ)
キャプション作りに集中しようと、真波はピンと背筋を伸ばした。