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真紅の花嫁
第16章 仄白い指
「こちらは朝山紫郎が最初に描いたとされる作品です」
真波は壁の絵を示した。
十二号――横六十センチ、縦五十センチほどの油彩画だ。
「独創的な色彩と構図で、田園風景を描いていますね。
紫郎はそれ以前には、誰かに絵を習ったという記録がありません。
それなのに、筆遣いも絵具の選び方も、すでに完成されています。
紫郎に天性の絵の才能があったことがわかります」
天井の高い展示室に声がよく響く。
十数人の男女が、ぐるりと絵を囲んでいた。
八十過ぎと思われるお年寄りから十代の若者まで、年齢もさまざまだ。
彼らの視線は紫郎の絵に集中しているにもかかわらず、真波はドキドキがとまらない。
(見つかったらどうしよう)
人前で話すのは慣れているはずなのに、いつものギャラリートークでは考えれないくらい緊張していた。
スカートの下がたよりなかった。
ショーツを穿いてないだけで、これほど心細くなるとは知らなかった。
心細いだけではない。
胎内に秘めた小さな異物――ローターがいつ動きだすかと、不安におびやかされどうしだ。