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真紅の花嫁
第4章 萌黄の令嬢


「荻沼《おぎぬま》さん。桐原くん、見ませんでした?」

矢崎真波は通りがかった先輩学芸員に声をかけた。

いつもサスペンダーをしている、三十代後半の小柄な男性だ。

「いや、知らない。
ワークショップの手伝いでもしてるんじゃない?」

「困ったな。
これ運んでもらおうと思ったのに」

テーブルに積み上げた大判の美術全集を示す。
図書コーナーの古くなった資料を片づけているところだった。

期待を込めた眼を向けるが、荻沼は気が付かないふりをして去っていった。

真波はしかたなく、ずっしりと重い本を両手に抱えて、資料室に向かった。


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