この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
真紅の花嫁
第4章 萌黄の令嬢
会議室の前を通り過ぎようとして、ふと足をとめる。
中で何か物音がしたような気がしたのだ。
今日は誰も会議室を使用する予定はないはずだった。
わずかにドアが開いていて、かすかな声が聞こえた。
「な、なに……ちょ、ちょっと待って」
戸惑うような声は、若い女のものだった。
「ダメよ、亮くん……こんなところで……あ」
のぞき込もうとした顔をあわてて戻し、ドアの陰に固まる。
(マズいとこに出くわしちゃったな)
あきらかにカップルが人目を忍んでいちゃついているところだ。
そのまま通り過ぎればいいものを、〈亮くん〉という言葉に、足が前に進まなくなった。
両手に本を持ったまま、聞き耳をたててしまう。
心臓がどきどきした。