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真紅の花嫁
第4章 萌黄の令嬢
亮は軽く肩をすぼめた。
「実際の風景をそのまま描いているのに、どことなく幻想的というのかな。なんか不思議な魅力がある」
それは、最初に朝山紫郎の絵に接した時、真波が感じた印象と同じであった。
急にこの少年に親しみを覚えた。
「武藤工業って、市内に大きな工場をいくつも持っている、あの武藤工業だよね。
昔は町工場だったんだ。
そこの旋盤工? イメージわかないなあ」
「絵は幼いころから好きだったみたい。
休日などに暇を見つけては、熱心に風景画を描いていたらしいわ。
武藤綾乃――戦後、武藤工業を大きくした武藤重吉の夫人がその絵を気に入り、紫郎を支援したの。
支援といっても、画材を買い与えたり、絵を購入する名目で多少の金銭的な援助をする程度だけど。
紫郎は数年後に身体を壊して、母親の故郷の高崎で療養生活に入るんだけど、その時、ほとんどの作品を武藤夫妻に譲ったのね。
朝比奈市の各所を描いた絵を、何十枚も。どれもすばらしい作品よ」
「お姉さんこそ、詳しいね」
亮の顔には、揶揄するような表情が浮かんでいた。