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真紅の花嫁
第4章 萌黄の令嬢
真波は少ししゃべりすぎたことに気づき、こほん、と咳をしてから、
「この画家について、ずっと研究していたの。
ほかに知りたいことはありますか?」
「うーん、そうだなあ。これ」
と絵の左下を指して、
「人の影みたいに見えるんだけど。これってなんだろう」
アサヤマという画家のサインの横にある二本の暗い筋。風景画の隅に描かれたそれは、確かに、キャンバスの外側の立つ二人の人物の影のようでもあった。
「そうですね。
紫郎には当時中学生だった息子さんがいましたから、絵を描く父親の傍にいたこともあったでしょう。父と子の影、と解釈してもいいのかも知れません」
「なるほどねー」
大して感心もしない口調だった。
「一九五九年に死亡ってあるけど、じゃあ、療養して数年で亡くなったんだ」
「ええ。高崎に移ってからは絵は描かず、四十九歳で紫郎は死んでいます。
朝比奈市にいた一九五一年から五三年までの四年間が、紫郎の活躍時期ということなりますね」
「写真はあるの?」
「紫郎の作品は絵画だけです」
「そうじゃなくて、この画家の写っている写真。
どんな人だったのかなって」
「それなら、いくつか見つかってますよ。
そうね、この夏に朝山紫郎の特設展をやるんだけど、よかったら見にこない?
その時には、紫郎の肖像写真も、さっき言ったたくさんの風景画も展示するわ」
「そうだね。考えておくよ」
亮が美術館のアルバイトに応募してきたのは、それからしばらしくてからだった。
真波の顔を見て、いたずらっ子のように、にこっと笑った。