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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第3章 血まみれ道化師と血みどろお人形
 頭の中がまだぼんやりとする。
 粗末な鏡台の、曇った鏡に映る見慣れた顔。長い前髪の隙間からぎらつく真赤なひとみ。
 頬に触れてみる。温かい。今日は朝からおいしいご飯をたくさん食べさせてもらったから、比較的、血の色の濃い肌をしていた。それでようやく、今朝の出来事が現実味を帯びてくる。

 薄いくちびるに紅筆を滑らせる。常ならばこれだけで途端に人形じみる容貌も、皮膚の薄い部分がほんのりと赤いせいか、何だか妙に、人間らしい。頬に触れた手袋越しの温度を、すぐに思い出すことができる。足元がふわふわと浮かんでいるような、あまい気持ち。

「ふふ」
「思い出し笑い?」

 隣で鏡を覗きこんでいた雅弥が、笑いながら頬をつついてくる。

 彼は今朝、陽色が大部屋へと戻ってくるまで、心配してくれていたらしい。お土産に包んでもらった麺麭を半分こしながら呼び出されたわけを報告することで、ようやく安堵してくれた。

「そんなにいい女のひとなの、陽色のお客さん」
「んん、女のひと、なのかな、あれ、どっちなのかな」

 陽色は今朝向かい合わせで食事をしたばかりのひとの姿かたちを思い返してみる。この間の幅広帯の着物姿ならばいざしらず、今朝の燕尾服姿は明らかに男の衣装であった。艶やかな声もそれほど高くはない。あのひとは陽色と同じくらい丈長かったし、団長を容赦なく足蹴にする様は力強かった。

 それなのに、全然恐ろしくなかった。嫋やかで、色っぽくて、優しくて、何だか一度もいたことのないのに、己のおねえさんであるようにも思えた。姉。と云うよりは、天女だか、女神だか、とにかく、崇拝すべきものであるようにすら感じてしまう。

「んん、こう、たぶん女のひとなんだろうけど……」
「私と同じ?」
「まやちゃんは女のこだよ」

 雅弥は、もう、だか何だかあいらしい声を漏らして、陽色の頬にくちづけてきた。陽色の顔は先ほどより更に血の気が巡る。あいらしい顔が、人形ではなく、人間の子どものそれになる。

「そ、そしたら、おれ、お仕事行ってくる」
「はいはい、気を付けてね」

 片手に化粧筆を持ったまま、ひらり、ひらり、手を振る雅弥に見送られ、陽色は客引きに立つため部屋を後にする。

 つぎはぎだらけの衣装。
 履きなれた高下駄。
 せいぜい哀れなお人形のふりをして、今日の賃金を稼ぐのだ。
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