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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第3章 血まみれ道化師と血みどろお人形
 金色の髪をふわふわと乱し、すみれ色のひとみを焔の如くめらめらと燃やして、立っていたのはあのひと、だった。

 陽色の、あのおひと。西園寺だ。

 白いブラウスに、膝丈でくすんだ紅色をしたドレスを身にまとっているから、きっと、彼女。今朝会って、別れたばかりの。思わずくちをあんぐりと開ける。

 あのひとは強い口調でもう一度、君、と云った。背後にくすんだ墨色の髪をした女性を従えている。

 と、云うよりも、あのひとの後を、女性は呆れながら追いかけてきたらしい。理央さま、取調室に勝手に入る民間人がいますか、となだめている。

 あのひとは聞いていやしなかった。

 粗末な机の上に、長い脚をがつんと叩きつける。踵の高い、磨き込まれた革靴が、陽色のすぐ目の前でぎらぎら光った。

「うわあ、お嬢さま、ご挨拶」
「千遥、君はこの件に関わっていないと信じているよ。私は身内の手を潰したくないんだ。おい、離したまえ、明莉」
「いやいや、一応わたしにも上司を守る義務がありますので」
「別に取って食いやしないよ! 過保護だね!」
「取って食わなくてもぶち殺す気でしょ! その殺気を何とかしてください!」
「貴様ら、まとめて黙れ!」

 眼鏡の男がよく通る声で神経質に怒鳴った。そこで一度、部屋に沈黙が落ちる。最早誰も陽色の方を見ていない。

 おれ、容疑者じゃないの。

 自らそう云いそうになり、陽色は肩を縮めて小さくなった。

 あのひとは机から片足を下ろし、胸を張って腕を組む。胸元でレエスのついたリボンがひらひらと揺れた。

 天使、雨宮千遥、も、悠然と脚を組み、彼女を見上げて見せた。
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