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RINZIN ー隣人ー
第7章 第六話
 芽生は玄関を出ると、駅へ向かって歩く。

 いつもならこの時間からバイトに行き深夜に帰宅するが、そのバイトも先日すでに辞めていた。
 
 そう──芽生はもう、きょうかぎりで実家には戻らない。

 ここ約半年のあいだ、芽生はあらゆる手を尽くして家を出る計画を立てていた。そのひとつが、やっとの思いで手に入れたあのアパート、エステート池川204号室だった。

 未成年である彼女がどんな手を使って住処を手に入れたのか──だが現実に、芽生にはもう自分だけの部屋があるのだ。

 家を出る日をこの日にしたのは、弟の誕生日を待ったからである。家族を捨てていくとはいえ、それだけはどうしても祝ってやりたかった。しかしそれが仇となったといえよう。

 (でも……もういいの。むしろあれで最後の踏ん切りもついたから)

 芽生はここ数日のあいだ、きょうと同じようにバイトに行くフリをしてアパートと実家を往復し、着々ことの日のために準備をしていたのだった。

 (さよなら、私の家。私の家族──)


 ふたたび電車を乗り継ぎ、芽生はエステート池川を目指す。
 このとき、昼間からつづいていた発熱がだんだんひどくなっているようだった。

 (寒い……しんどい。はやく横になりたい……)

 フラフラとおぼつかない足どりでなんとか部屋のドアの前までたどり着いたとき、芽生はあることに気づく。

 (あれ……うそっ。カギ……部屋のカギがないっ?! ポケットに入れたはずなのにっ──)

 スカートのポケットに入れたはずのアパートの鍵が、どこをどう探してもないのだ。

 (そんなっ……はっ──! もしかしてお兄ちゃんとしたときにポケットから……?)

 半年もかけて慎重に練った計画。意を決してそれを実行したというのに、最後の最後でアパートの鍵を実家に落としてきてしまったかもしれないという痛恨のミス。

 (どうしよう……今夜は戻ってまたあした……でもそれだとっ……)

 そうしているうち、芽生は発熱がさらにひどくなり、その場に立っていられなくなる。

 「……誰か……たすけて──」

 芽生は朦朧とする意識のなか、となりの203号室のチャイムを鳴らそうとするも、そこで力尽き倒れ込んでしまうのだった。


 『──だっ、大丈夫ですかっ!?』
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