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第35章 ２日目・夜８　パスワード

「なんでもなんて、言ったかしら？」
ヒロシのその目に負けないように、
綾子は強がった。

素直に約束を聞いてくれたのだから、
お返しをしないわけにはいかない。

でも、簡単に、わかったわ、、
とは受け入れられなかった。

隣の部屋の夫の声が
大きくなった。笑ってる。
あんなにバカ笑いするんだっけ？
仕事の電話だろうか。

会話も少し聞こえる。
「じゃあ、明日、行くから」
でもそれくらいしか聞き取れなかった。
誰と話しているの？

あなた、明日またいなくなっちゃうの、、、
そしたら、アタシ、、ひとりきり？
そう思うと急に力が抜けた。
強がりの緊張の糸も切れそう、、、。

夏音が戻ってくるまで、ひとりきり、、

いや、ひとりじゃない、、、
二人きり、、、になってしまうわ、、、
もう、ここまで、、、

ヒロシにもう一度、聞かれた。

「俺のお願い、なんでも聞いてくれるんですよね」

綾子は、コクリ、小さく頷いた。

、、、何でも、、、する、、、
これで終わりにしてもらわないと、、、

誰にも見られてはいけない、あの写真が
撮られてしまった、その代償は、
自分で払うしかなかった。
そのためにここにきたのだ。

何を要求されても従おう。
、、何を、、その覚悟はできていた。

写真は消すことができても
ヒロシの記憶からは消すことができないだろう。
ヒロシのいいなりになって、上書きするしか手段は残されていない、
そして今夜のこれっきりにしてもらう。

なんでもが、どれほどのお願いなのか、怖いところもあるけれど、
もう従うしかない。

綾子は目を瞑って大きく深呼吸した。