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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅢ(淫夢)♠ 
「この―時計」
「ん?」
 直輝が小首を傾げた。これも夫の癖の一つだ。中学時代からの数ある癖。中三の時、練習試合でサッカーボールが右耳に当たり、少し聴力が落ちた。よく聞こえない時、直輝はこんな風に心もち首を傾ける。
 直輝の仕草の一つ一つがこんなにも愛おしい。自分の中にまだ、夫への愛情がこれほど残っていたこと、この男が自分にこれほどまでに影響力を持つことに紗英子は今更ながらに愕いていた。
 直輝について、私に知らないことはない。
 妻の自信というものだ。夫に愛される妻だけに許された特権。
 また、あの女の顔が瞼に浮かんで消える。
「昨日の夜、私がプレゼントした時計ね」
「ああ」
 直輝が煙草の先をクリスタルの灰皿に押しつけた。おもむろに起き上がり、紗英子を見つめる。
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