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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅢ(淫夢)♠ 
 直輝にとっては、その聖域に立ち入らせて良い者は有喜菜であって、紗英子ではなかった。その違いというか、意味は大きいと思う。しかし、直輝との結婚生活をこれからも維持していくつもりならば、これ以上、そのことについて言及するのは避ける方が賢明だ。
 紗英子もまた裸のまま上掛けの下にすべり込んだ。パジャマや下着は直輝に脱がされたまま、まだ下に散らばっている。
 それを見ると、余計に空しい想いが胸にひろがってゆくのは、どうしようもなかった。自分たちを繋ぐのは身体の繋がりだけ、直輝は自分に対して、大切なものを見せても良いと思える人間だと思うほどの価値を見出してはくれなかった。それは信頼という言葉で置き換えても良いかもしれない。
 夫は十三年間、連れ添った妻よりも有喜菜をより信頼していたのか。
 身体だけの繋がりなんて、何の意味もない。直輝と有喜菜は確かにただの友達にすぎなかったのかもしれないけれど、彼は有喜菜に、恋人であり妻でもあった紗英子には見せられないほど大切なものを見せていた。しかも、今から二十三年も前に。
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