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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第6章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
 院長はそれでも、
―不妊に悩み苦しむ人たちの光になれば。
 と、依然として代理母出産を取り扱っている。
 まずは、そこに問い合わせてみようと思ったのである。
 電話番号を調べ、携帯でクリニックにかけてみた。その一時間後。
 紗英子は携帯を握りしめ、興奮のあまり頬を紅潮させていた。
 丁度、運も良かった。たまたま時間が空いていたとかで、受付の看護士が院長本人に代わってくれたのだ。
 紗英子の事情をひととおり聞いた院長は、力強く請け合った。
―大丈夫ですよ、卵巣が両方共に健康な状態で残っているのであれば、見込みは十分あります。一緒に元気な赤ちゃんが授かるように頑張りましょう、お母さん。 
 院長はまだ妊娠もしていない紗英子に対して、お母さんと呼びかけた。三十五年間の人生で、〝お母さん〟と呼ばれたのは初めてだった。電話を切ってから、紗英子は一人、ひっそりと涙を流した。
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