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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第6章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
「紗英が急に電話してくるなんて、よほどのことじゃないとないわ」
どうしたの、何かあったの?
姉のように優しく訊ねられ、紗英子は一瞬、後ろめたい想いに駆られた。一時は有喜菜が故意に、直輝と自分を仲違いさせようと企んで、時計コレクションのことを話したのだと勘繰ったこともあったからだ。
が、やはりというべきか、紗英子は今までのように、素直に有喜菜に心を開けない自分を感じていた。直輝が紗英子には二十三年目にやっと披露したコレクションを、有喜菜には二十三年前に披露していた。そのことに拘っているのだ。
馬鹿げているとは思う。所詮は子ども同士のことにすぎず、直輝の妻となって年月を経た今、何をそこまで拘るのかと自分でも考えるが、理屈と感情が必ずしも一致するとは限らない。
依然として魚の小骨が喉にかかったような、些細だけれども不快感を憶えずにはいられない何かが紗英子の心から消えてくれない。ふさわしい表現がなかなか見つからないが、強いていえば、それは、ほのかな不信感であった。むろん、有喜菜に対してだけではない。夫に対しても似たような気持ちを抱いている。
どうしたの、何かあったの?
姉のように優しく訊ねられ、紗英子は一瞬、後ろめたい想いに駆られた。一時は有喜菜が故意に、直輝と自分を仲違いさせようと企んで、時計コレクションのことを話したのだと勘繰ったこともあったからだ。
が、やはりというべきか、紗英子は今までのように、素直に有喜菜に心を開けない自分を感じていた。直輝が紗英子には二十三年目にやっと披露したコレクションを、有喜菜には二十三年前に披露していた。そのことに拘っているのだ。
馬鹿げているとは思う。所詮は子ども同士のことにすぎず、直輝の妻となって年月を経た今、何をそこまで拘るのかと自分でも考えるが、理屈と感情が必ずしも一致するとは限らない。
依然として魚の小骨が喉にかかったような、些細だけれども不快感を憶えずにはいられない何かが紗英子の心から消えてくれない。ふさわしい表現がなかなか見つからないが、強いていえば、それは、ほのかな不信感であった。むろん、有喜菜に対してだけではない。夫に対しても似たような気持ちを抱いている。