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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第6章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
 もちろん、それは紗英子の勘ぐりであり、取り越し苦労にすぎないだろう。しかし、去ってゆく有喜菜の後ろ姿をその場で茫然と見送りながら、紗英子は自分が何か取り返しのつかないことをしてしまったのではないかと思い始めていた。
 そして、慌てそんな想いを打ち消す。
 馬鹿な、ここまで来て、迷いは禁物だ。自分は正しいことをしているはずではないか。
 もし有喜菜が妊娠に成功すれば、紗英子は長年の夢をやっと果たせる。結婚して以来、十二年間ずっと欲しいと切望していた我が子をこの腕に抱けるのだ。
 大丈夫。ほんの少し気弱になっているだけだ。紗英子は自分に言い聞かせながら、もう一度空を振り仰ぐ。いつのまにできたのか、水色の透明な空に、ひとすじの飛行機雲が浮かんでいた。
 紗英子はゆっくりと草の斜面を登った。土手の上のこの道は、中学時代は紗英子と有喜菜の通学路であった。毎日、朝と夕方、二人でこの道を歩いたものだ。紗英子は自転車を押して歩き、有喜菜はその傍らを飛び跳ねるように歩きながら、学校までの道程を辿った。
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