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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第6章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
 有喜菜にしてみれば、クラス替えをした途端、親友である紗英子が直輝を奪うように彼氏にしてしまった―と思ったとしても不思議ではない。
 まあ、いずれにせよ、代理出産を頼む女が有喜菜であることは夫には伏せておいた方が良い。有喜菜の挙動にいささか疑わしいところがあると判った今では、余計に黙っていた方が賢明というものだろう。
 もっとも、紗英子は元から有喜菜のことを直輝に話すつもりはなかったが。有喜菜にも言ったように、代理母はクリニックで紹介された名も知らぬ女性だと言うつもりだ。子どもが生まれてからの親権の問題を煩雑にしないためにも、個人情報守秘の義務があり、互いの住所や名前は知らされないのだと。
 何故、有喜菜を代理母に選んだのかと訊かれれば、紗英子にも、はきとした応えはない。ただ、いちばん身近にいる妊娠できる身体を備えた女性ということで、真っ先に有喜菜の顔を思い浮かべた。いや、というよりは、有喜菜しか考えられなかったのだから、やはり、自分は彼女に信頼を寄せているのだろう。
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