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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第9章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦
普通、このエコー写真は妊婦本人が貰うのだけれど、この場合、妊娠したのは有喜菜でも、写真は〝母〟である紗英子に渡される。が、有喜菜本人が希望すれば、彼女の方にも渡して貰えるということだった。
それについて訊ねられた時、有喜菜は即答した。
「私は特に希望しません」
あまりにも素っ気ない返答に、温厚な医師も気圧されたように押し黙り、診察室には微妙な静けさが満ちた。
恐らく医師もその場に居合わせた看護士も、有喜菜がこの妊娠を心から歓んでいるわけではないと察していたはずだ。が、一度目の試みでの成功という幸運に酔いしれている紗英子には、有喜菜の固い表情に気づくゆとりはなかった。
診察室を出た後も、紗英子はまだ夢の中をふわふわと漂っているような気分だった。会計を済ませ、有喜菜とクリニックの玄関を出ると、二人は何となくぶらぶらと歩いた。建物を取り囲む庭園を抜けると、ほどなく湖に行き当たる。
それについて訊ねられた時、有喜菜は即答した。
「私は特に希望しません」
あまりにも素っ気ない返答に、温厚な医師も気圧されたように押し黙り、診察室には微妙な静けさが満ちた。
恐らく医師もその場に居合わせた看護士も、有喜菜がこの妊娠を心から歓んでいるわけではないと察していたはずだ。が、一度目の試みでの成功という幸運に酔いしれている紗英子には、有喜菜の固い表情に気づくゆとりはなかった。
診察室を出た後も、紗英子はまだ夢の中をふわふわと漂っているような気分だった。会計を済ませ、有喜菜とクリニックの玄関を出ると、二人は何となくぶらぶらと歩いた。建物を取り囲む庭園を抜けると、ほどなく湖に行き当たる。