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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第9章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦
 もしかしたら何度でも挑戦し続けたら、その中には成功するかもしれなくても、よほどのセレブでもない限りは経済的に続けるのは困難なため、諦めるしかないのだ。それが現在の不妊治療の限界でもあった。
 紗英子は今、幸福の絶頂にいた。不思議で堪らない。これまでは―特に子宮を摘出してしまって以降、自分は無色の世界に生きていたようなものだった。花の色も鳥の姿も、自分には何の色も持たず、ただモノクロの世界で機械的に呼吸し、何の意味もなく動いて無為に日々を過ごしているだけだった。
 それが、今はどうだろう! 寒桜は濃紺のピンクに染まり、湖は早春を感じさせる穏やかな陽光に煌めいている。蒼穹を舞う白い鳥たちは祝福の歌を奏でるかのように優雅に翼をひろげていた。
 昨日まで、いや、つい今し方まで灰色に染まっていたはずの周囲が一瞬にして薔薇色に変化したような感覚である。世界中が自分のために祝福してくれているようでもある。自分はこんなにも子どもを渇望していたのかと今更ながらに思い知らされた。
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