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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第10章 ♦RoundⅦ(再会)♦
 マスターの姿は、いつしか消えていた。控え室のようものがあるから、気を利かして、そこに籠もったのだろう。
 普段から、客の身の上相談には快く応じるが、けしてマスターの方から踏み込んでくることはない。それがこの店の人気の秘訣なのだ。
 その後、二人は一時間ほど他愛ない話をしてから、店を出た。直輝はタクシーで有喜菜をマンションの前まで送り届けた。
「少し寄っていく? コーヒーでも淹れるけど」
 その魅惑的な誘いに思わず頷いてしまいそうになりながら、直輝は意思の力を総動員して断った。
「いや、良いよ。今夜はもう遅いから。君も疲れたろうから、ゆっくり寝んでくれ」
「そう? 判った、じゃ、おやすみなさい」
「おやすみ」
 直輝は後ろ髪を引かれる想いで、有喜菜に背を向ける。
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