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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第11章 ♦RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦
「君が好きだ、いや、ずっと好きだった」
 有喜菜は我が耳を疑い、愕然とした。
「でも、あなたが選んだのは紗英子よ」
 直輝は噛みつくように言った。
「違う。俺は最初から君だけを見ていたのに、君は俺を見ようともしなかった」
「それは違うわ。私だって、あなたのことを」
 言い淀んだ有喜菜を、直輝は燃えるような眼で見つめた。
「そうなのか?」
「だから、言ったでしょ。六年ぶりに再会したときも。四月の初めに、あのピアノバーで出逢ったときにも同じことを私、あなたに言ったわ」
「ああ、確か君はそんなようなことを言っていたな。あのときは君から聞いた話―妊娠のことがあまりにショックで、実は自分が何を話して何を聞いたのさえ、憶えていないんだ」
「酷いわ。私の告白をろくに憶えてもいないのね」
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