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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第11章 ♦RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦
 有喜菜には正直、今、自分の子宮で育ちつつある赤ん坊に対して愛情はなかった。幾ら我が胎内で育っているとはいえ、遺伝子学的に見れば、全くの他人の子なのだ。何で、赤の他人に愛情など抱けるだろう?
 よく代理出産を引き受けた代理母が妊娠中に胎児に愛情を覚え、出産後も生まれた赤ん坊を実の親に返さない―、そういった事件も起こると聞いている。しかし、自分の場合に限っては、全く考えられない話だ。
 ただ、今回の出産はあくまでも〝仕事〟として引き受けているから、仕事を無事に終えなければならないという意識はあったし、とにもかくにも、これから生まれ出ようとしている生命を預かっているという自覚くらいはある。が、それは、単に他所の子を預かって家で面倒を見ているというくらいの感覚にすぎず、その子どもの居場所がただ家ではなく、自分の腹であるというだけの違いだった。
 考えてみれば、赤ん坊も憐れではあった。たとえ母親が狂信的なほどに望んでいるとしても、腹で育てている〝母親〟は少しの愛情も子どもに抱いてはおらず、むしろ早く赤ん坊が体外へ出て身二つになって、さばさばしたいと考えているのだから。
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