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決別
第1章

「!」

目が覚めた先には、見慣れたいつもの光景。



真っ白なカーテンに囲われた四方。規則正しい機械音。
ベッドに横たわる、沢山の管に繋がれた、健吾。

ベッド縁に突っ伏して寝ていた私は……泣いていた。


……ねえ、私またあの夢を見ちゃったよ。
健吾が事故にあった日の朝の。

あの日から、もう2年になるんだよ。



「…愛してるよ、健吾」


恥ずかしがってなんかいないで、
私ももっと貴方に言えばよかった。

「愛してるよ、瞳子」って、返ってくるうちに。


眠ったままの健吾。でも、心臓は動いてる。
髪だって爪だって伸びる。ただ、ずっと眠ってる。

2年間も、ずっと。




私の親にも、健吾のご両親にも言われたよ。
「もう、いいんだよ」って。


みんな私が『健吾』に縛られてると思ってる。




──本当は違うんだ。




『私』が健吾と居たかっただけ。

『私』が健吾を失うのが怖かっただけ。

『私』が健吾を縛っていたんだよ。


2年間も、ずっと。




だって、大好きな人だったんだもん。

愛してた。すごく愛してた。誰よりも。


結婚して、夫婦になって、これからもずっとずっと
一緒にいられるって信じてた。
そうであって欲しいって願ってた。


こんな日が来るなんて考えたこともなかった。
考えたくもなかった。






ごめんね。

ごめんね。

ごめんね。



いちばんつらいのは、健吾だったのにね。


どれだけ待ちわびても、願っても祈っても
健吾も奇跡も、起きてはくれなくて。

それでも期待し続けた、2年。
健吾を縛り続けた、2年。


でもね、健吾。ようやく決心できたよ。

夢の中の健吾が、悲しそうな顔をしたから。

今まで何回も繰り返し見てる夢なのに、初めて。

───それで、決別できたんだ。










今日、私は主治医にそれを告げた。




涙を流すのは、これが、最後だ。












「……延命装置、外してください……」
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