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100万本の赤い薔薇
第5章 再会
茉莉子は着替えると、温かい焙じ茶を大振りのマグカップに入れた。
マグカップを結依に渡すと、

「茉莉子さん、私、部屋に戻ってますね!」
と言ったが、
「あら、ピアノ弾いてて大丈夫よ。
私たち、外のテラスで話をするから」
と言った。

仏頂面の拓人がリビングに来たので、
茉莉子はマグカップを渡すと、
「ベランダに出ましょうか」と言って拓人を促した。


テラスの端の戸棚から、ランタンを出して灯した。
まださほど外は暗くはない。


「お母様は、何で家を出たの?
お父様と良子さんて、姉弟だよね?
ずっと、『お母様』って呼ばされてたけど、
それは違う。
お母様は他に居たこと、
ずっと覚えてたんだ。
違うって言ったら、死ぬ程叩かれたよ。
叩いた後、抱き締めて、
『あの女は死んだの。二度と会えないのよ』って言われてた。
お母様は、僕を捨てたの?」

「本当に真実を知りたいのね。
どんなことでも受け入れる覚悟はある?
そして、聞いた後、どうするかも考えなくてはいけないわ」

「覚悟はしている。
もう、あの家に帰らなくても良いと思ってる」と唇を噛み締めて言った。

「判ったわ」と言って、
淡々と茉莉子は話を始めた。



ただ、これは私からの見解なので、私情も入ってしまってることもあるかもしれないけど。

先生、と昔も今もそう呼んでいる拓人さんの父親は、
私の家の主治医だったの。
そして…単に跡継ぎが欲しいと思って私と結婚したの。
その時、私はまだ大学4年生で翻訳のアルバイトに伺っていた時に…薬を飲まされて意識がない状況で、妊娠させられたわ。
なんとか卒業は出来たけど、その後は監禁されるように、
あの屋敷の別宅にお手伝いさんと住まわされて、
両親や友人とも会えないまま、貴方を出産したの。

出産の時も、ギリギリまで病院にもかからせて貰えず、
誰にも私を見せたくないし、傷物になれば他の男の人のところにも行けないだろうと、勝手に帝王切開で出産するようにしてたの。

家に戻っても、本宅に入れて貰えることはなくて、
ずっと貴方と私、それにお手伝いさんの3人で別宅で生活したの。

でもね、その時はとても幸せだったわ。
おっぱいあげたり、料理をしたり、
オムツや肌着を縫ったり、お洗濯したりして。
ピアノやヴァイオリンを弾くと、すごく喜んでくれたわ。
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