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100万本の赤い薔薇
第6章 嵐の夜
茉莉子と拓人は、書面を確認すると、
必要なところに署名捺印した。

まずは、調停になり、
その後、裁判になるかもしれないこと。
調停の場では、先方と顔を合わす場合もあるが、
別々に話をすることも多いと説明を受けた。


その後、佐々木弁護士は、2人を近くの個室のある和食屋に連れていき、静かに食事をした。


あちらが拓人を取り戻そうと、
車で拉致しようとすることもあるから、
登下校には気をつけるようにと言われた。

「そんなことまで?」と言うと、

「人は狂気に走ると、思いがけない行動を取るからね。
怖がらせる訳ではないが、
拓人くんも茉莉子ちゃんも気をつけなさい」と、
心配そうに言った。

そして、
「まあ、拓人くんがしっかりしてるから、
茉莉子ちゃんを護ってくれるだろう」と笑いながら言った。


弁護士と別れると、電話でアポイントを取った上で、
2人は拓人の学校に行った。

担任と学年主任の先生に自分の名刺を渡した上で、
拓人の父親とは10年前に離婚していることと、
息子から父親とその姉から虐待を受けているという申し出があり、
母親である自分が保護したことと、
弁護士を立てて改めて親権を争うことになったと伝えた。

拓人は、制服を脱いで、
背中や尻を見せた。
古いものから新しいものまで、
鞭で打ち据えられた無数の傷があった。

茉莉子は息を呑んで涙を流した。

学校の教師たちも、
「これは…」と言う顔をしながらも、
学校内に父親たちを入れないことなど約束してくれた。
そして購買部で必要な物を買い求めた。

その後、病院に行き、
念の為、診断書も取った。
虐待の事実を、客観的な証拠として押さえておく為だ。


帰り際に、2人は自宅近くの百貨店に立ち寄り、
拓人の服や下着、靴と、Suica入れを兼ねた小振りな財布などを購入した。

ついでにと、食材も買ってから、自宅に戻った。


長いような、でもあっという間の1日だった。


拓人は、
「ピアノ弾いても良いかな?」と言って、
この前、コンクールで弾いていた曲を弾き始めた。


茉莉子は、キッチンでそれを聴きながら、
料理を始めた。


こうして、同じ部屋で過ごせるなんて、
本当に夢のようだった。

こんな日がずっと続くことを、
祈るような気持ちで願いながら、
ピアノの音を聴いていた。
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