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100万本の赤い薔薇
第1章 いつも見てた
翌日には旅立つというのに、
何も用意していないという真人のお尻を叩くように
駅まで送り、茉莉子は部屋に戻った。


考えてみたら、
業者以外で誰かがこの部屋に入ったのは初めてのことだった。


急に淋しく、不安な気持ちに押し潰されそうになったが、
きっとそんな気持ちにもすぐ慣れてしまうのだろうとも思った。


真人は暫く遠くに行ってしまう。
これまでも、いつも近くに居たわけではなかった。
でも、本当に必要な時に、
不思議と隣に居てくれたのは、
真人だったということは確かな事実だ。


そんな真人に、
このまま甘えていて良いのだろうかとも考えたが、
今、それを考えるほど、
自分には気持ちの余裕がないことも知っていた。


欲しい物は、ない。

でも、欲しい人は、いる。

息子を取り戻したい。

口に出来ないけれど、
いつも心の中で思っているのは、そのことだった。



そして、明日からの日常を考えると、
また、少しずつ混乱する。


長谷川に連絡をした方が良いのか。
飲み代のお礼は言いたいが、
面倒なことに巻き込まれそうな気もする。
しかし、よく私のことなんて気づいたものだ。
しかも、フルネームで呼ばれるなんて!
口説いてくるようなことを言ってたのは、
酔っていたからだろうし、大丈夫かな?
何より先輩のご主人なわけだし。
長谷川本人より、
先輩に久し振りに会いたいかな。


バーで長谷川を運ぶのを手伝ってくれた男の子…
名前が思い出せないのと、
顔も覚えてないけど、
ちゃんと、お礼を言いたいかな。
ちょっと絡まれていて参っていたから、
助かったわけだし。
背が高くて細くて、髪が長かったのと、
ちょっと猫背だったことしか、覚えてない。
声も、聴いてない。
無口な子なのかな?
あのバーに、いつも居るのかな?
あんまり覚えてない。


ママにもお礼を言わなきゃ。
でも、長谷川に会うかもしれないと思うと、
バーに行くこと自体、躊躇ってしまう自分もいる。



なんか、バーに寄りにくくなったじゃない!

声を出して呟くと、
モカが不思議そうな顔をして、
膝に飛び乗ってきた。



そんなことを、ぐるぐると考えているうちに、
日曜が終わりを迎えていた。
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